
今回はアルミのクッカーに注目してみましょう。
現在のアウトドアの市場では、チタンクッカーがすごく優位性を持っています。snowpeakにしてもEVERNEWにしても、チタンが主流だと思います。やはり、軽くするためです。山でする調理と言えば、お湯を沸かすか、せいぜい何かを茹でるぐらいだしということもあって、チタンクッカーが主流になっていると思います。実際、チタンは金属を薄くできるので、軽いですしね。
だけど、チタンクッカーには圧倒的に不利な面があって、それは調理がしづらい[*1]ということ――つまり、焦げやすいということなんです。
*1: チタンは熱伝導率が非常に悪いので、火が直接当たっているところだけが熱くなり、離れているところは温まらず、調理が難しい。
※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。
炊飯にこそULマインドが!? 定番Trangia miniの再発見
うち(Hiker’s Depot)でも、UL(ウルトラライト)という文脈では、クッカーはマグポットだけでいいという提案もしてきました。フリーズドライフードにお湯を注ぐだけでいいじゃないかと。
だけどその反面、ULの文脈にはもうひとつ、過度にモノに頼らないという側面があるんです。テントではなく、タープで寝るというのも、プロテクションが少ない分は、自分の経験で補うという考え方です。食についてこの考え方を敷衍すると、テクニカルなフリーズドライに頼るんじゃなくて、米と調味料でシンプルに食を楽しむという方向性が出てくるんです。
もともと、うちのお客様の中でウルトラライトに興味を持っていたのは、渓流釣り師の人が多かった。源流域に入っていくにあたって軽くしたいからという理由。彼らも一時期はマグポットを使っていました。でもやっぱり、沢で魚を釣る、焚き火をする、米を炊くっていう、昔からある自然な流れに回帰してきたんです。
そして、それを見ていたハイカーの人たちの中からも、ああ、それいいかも、と考える人たちが出てきた。ウルトラライトの考え方を突き詰めていくと、食事も現地調達できたほうがいいんじゃないとか、そういうときにお米が炊けたほうがいいんじゃないとか、調理できたほうがいいんじゃないかという発想に行き着いたんです。実際の重量はともかく、精神的な部分ではそういうものの方がウルトラライトなんじゃないかという。
それに、やっぱり米炊いたほうがうまいんですよ、間違いなく。

ソロ用アルミコッヘルの定番として再評価されたTrangiaのミニセット。
そういう経緯があって、調理がしやすいアルミのクッカーがもういちど注目されるようになってきたんです。そして、ソロで使いやすいアルミコッヘル[*2]を探していく中で、Trangiaのminiが再発見されます。ご飯は炊けるし、蓋はフライパンになるしっていうので、調理をしたい人向けの定番みたいになったんですね。
*2:コッヘルは英語のクッカーとほぼ同義のドイツ語。登山用語としてはコッヘルの呼称が長く親しまれてきた。
もともとはこれにTrangiaのアルコールストーブとゴトクが付いて、セットで売られている製品です。でも、僕はこの鍋だけを売りたかったんですよ。
僕らの学生時代はアルミコッヘルが圧倒的に主力で、モリタ[*3]のものを始め、ソロ用のアルミコッヘルなんていっぱいあったけど、今はどんどんなくなってきている。バリエーションも少なくなってきている。だから、Trangiaの日本の代理店、イワタニ・プリムスさんに掛けあって、これだけで売らせてもらえるようになったんです。
*3:森田製作所。現在は既に廃業している。
- 製品名
- ミニセット
- メーカー
- トランギア
- 価格
- ¥2,730
- 購入
- Hiker’s Depotほか
WANDERLUST EQUIPMENT / GREASE POT COZY KITのガレージメーカーらしいアプローチ
次はWANDERLUST EQUIPMENTが出している製品です。
ぶっちゃけ、鍋自体はこれ、アメリカのWALMARTとかで普通に売ってるものです。でも面白いことにこれ、軽いんです。めちゃくちゃ。100g切ってるアルミ鍋ってすごく珍しいんですが、っていうのも、この鍋がペラペラに薄いからです。アメリカでは、壊れても誰も文句言わない、安っちい鍋なんです。
でも、ウルトラライトの人たちには、アウトドアプロパーの商品じゃないものの中から面白いものを見つけて使っていく、っていう流れがある。WANDERLUST EQUIPMENTの粟津創さんも「これ使えんじゃない?」っていうんで、使っちゃったわけです。で、彼なりに、もっとウルトラライトにするには?ということで、蓋の取っ手をダイニーマ・ラインに付け替えています。

GREASE POT COZY KITはプロダクトデザイン的にも美しい。
ダイニーマは別に熱に強いわけじゃないですよ。それは正直、ガレージメーカーだから許される方法だと思うんです。ガレージメーカーって、極端なこと言っちゃうと、平均点なんて求めなくていいんですよ。小ぢんまりとまとまってる商品だったら、それ別にマスプロメーカーが作りゃいいんじゃね?って話ですよね。
例えば、こんなに薄いアルミの鍋を強い焚き火にダイレクトにかけたら、焼きなまし状態になってベコベコになる可能性もあると思うんです。でもそれに対して、山で使うものに耐久性がなくていいのか?って話をしても、ナンセンスなんですよ。
これはとにかく軽いってことが最大のポイントなんですよね。さらに軽くするために、取っ手のところもダイニーマにした。それでいいじゃない?っていう。あとは全部使う側が気をつけて使いましょうねっていうのですよね。

トランギアミニをスタッキングできる。
だから、突っ込みどころはあるかもしれないけれど、実にウルトラライトらしいアルミのクッカーだと思うんです。2人分の食事が作れるかもしれない、というサイズもいい。それにプラス、コジーも付いている。このコジーを付けてると、Trangia miniもスタッキングできるんです。収納袋はキューベン製で、これもそそります。
- 製品名
- GREASE POT COZY KIT
- メーカー
- Wanderlust Equipment
- 価格(本体)
- ¥3,600円
- 価格(本体+キューベンスタッフサック)
- ¥5,800
- 購入
- Hiker’s Depotほか
焚き火で使うために生まれた ロータス アルミポット
最後はHiker’s Depotスタッフの長谷川晋が中心になって企画したロータス アルミポットです(冒頭の写真)。
うちのオリジナル製品ではなくて、AntiGravityGearのKatahdin stoveを取り扱っている代理店ロータスの製品として売られるものです。

パーセルトレンチに乗せたアルミポット。取っ手は焚き火で便利なつる式。
この製品を企画した動機は、焚き火で使えて、なおかつ1合炊きができる鍋が欲しかったということ。この「つる式」の取っ手があると上から吊るせますよね? 沢なんかで木を3本組んで上からチェーンを下げて鍋を吊るすときにはこの形が必要です。
Purcell Trench(パーセルトレンチ)のグリルの上に乗っけるとか、石を組んで乗っける場合でも、「つる式」の取っ手なら焚き火の中から引っかけて取り出せる。そんな時にも便利なように、この取っ手は片方にしか倒れないようにしています。なおかつ取っ手は外れる。外した取っ手は、ちょっとぴったりすぎて傷が付いちゃうんだけど、鍋の中に収めることもできる。

フタの取っ手はわざと端の方に付いている。この方が使い勝手がいいからだ。
鍋蓋にはループ状のつまみをわざと端の方に付けています。木の枝などで引っかけて、鍋蓋をずらしたり取ったりするときに、端にあった方が都合がいいのです。
それなりに厚みはありますが、それでもこれで139g。Trangiaのminiセット(ポット、フライパン、ハンドルリフターで168g)よりも軽いんです。それでジャスト1合炊き。昔ながらのビリー缶の現代版でソロ版ですよね。Katahdin stoveに対応する平型鍋としても使えるし、ガスストーブでも使えるけど、やはり焚き火の中で使いやすいっていうのを、最大の特徴にしてますね。
実際にこれは、アメリカでかなり強力なたき火の中にぶっ込んで試験もしてきました。ほんと、焚き火のために使ってほしいクッカーですね。
- 製品名
- アルミポット
- メーカー
- ロータス
- 価格
- ¥3,140
- 購入
- Hiker’s Depotほか