
今年(2015年)のレインウェアの状況は面白いと思います。
軽量なレインウェアという視点で見ると、Outdoor Research のHELIUM II JACKETという定番製品をもって、ある程度完成なのかなという気はします。あれだけ十分に軽いものが出ていて、多くの人たちの一般的な山行スタイルであればなにも問題がないということになると、単純にそれ以上の軽量性を追い求めることはあまり求められていないと思うんです。じゃあ今後はどんな提案があり得るかというと――。
※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。

同社の MINIMUS JACKET などにくらべやや丈が長めで、ハイキングなどには安心感がある MONTANE の MINIMUS GRAND TOUR JACKET。
MONTANE が以前出していたSPECTOR SMOCKというモデルがありました。ジッパーを使わないスモック型の超軽量レインウェアだったんですが、それが廃番になるときに2方向に分化した。片方は夏用で、生地も変えてとにかく軽さを追求したMINIMUS SMOCKという製品になった。一方秋冬向けには、ちゃんとフードの調整もできてひさしも付いてて、袖や裾を絞って風雪の入り込みを防ぐような AERO EVENT PULLOVERになった。ふたつに分化して進化している。MONTANEのレインウェアってラン用に丈を短くして動きやすくしたものも多いのですが、さらに今度はハイカー向けに腰回りを冷やさないように丈が長めのもの MINIMUS GRAND TOUR JACKET というモデルが出た。
ULレインウェア差別化の流れが始まった
つまり、軽さを維持しながら、いかに機能的な差別化をするかというチャレンジが、もっとたくさん行われるようになると思うんですね。従来もいろいろな雨具がありましたが、ただそれが、軽量雨具というひとつのカテゴリーの中で、さらに細かく差別化が行われるようになる。とにかく軽量性の方に極端に振っているものがあれば、保温性を重視したものがあったり、レインコートのようなものがあったり。たとえばAXESQUINから出たアメノヒ 2.5は昔のカグールを軽量にしたような雨具ですし。

アノラックの丈が伸びたような構造の AXESQUIN アメノヒ2.5
今年はだから、軽量なレインウェアの選択肢というものが、今まで以上に増えた。昔はULだったらポンチョかケープというような固定的な選択肢だったのが、いまやいわゆるコテージ・マニュファクチュア(ガレージブランド)の人たちがミシンカタカタ1人で踏んでとかじゃなくて、ある程度の規模のプロダクトとしてさまざまに落とし込まれるようになった。そういう意味で、現在の雨具のラインナップっていうのは、非常に面白いんじゃないのかな。
Teton Bros. BREATH PANTSがもたらしたブレイクスルー
その前提を踏まえた上で、でも今回はあえてレインジャケットじゃなくて、レインパンツを紹介したいと思います。今年のレインウェアの中でいちばんのトピックはこれじゃないかなと思うんです。Teton Bros.のBREATH PANTS。これは急遽限定数で生産されたというモデルです。

「雨具感」はゼロ。レインパンツとは思えない美しいシルエットのTeton Bros. BREATH PANTS。
ALTRAという米国のランニングシューズブランドを扱っている日本の代理店ロータスさんが、ALTRA 用のゲーターを Polartec NeoShell を素材にして作りたいということで Teton Bros. さんと協業していたという流れが背景にあります。その協業の中で NeoShell のレインパンツって作れないの?という話が出てきて、急遽、テスト的に今年作りましょうということになって生まれた製品なんです。
NeoShell の特徴はずば抜けて高い透湿性にあるんですが、従来、NeoShell のレインパンツというものがなかった。理由としては、耐水圧が10,000mmで、ほかの防水透湿素材と言われるものよりも数値的に低目だということがあるかと思います。いわゆるシェルに使う素材としては、耐水圧は10,000mmあれば大丈夫と言われているんですが、最近の一般的な防水透湿素材は25,000mmとか30,000mmを超える設定になっているものが多いんです。そういうものが一般的になると、本当は十分だとしても10,000mmって消費者の心理からすると低く感じますよね。
でも、10,000mmの耐水圧があれば衣服の内側がドライになるのだとしたら、それを15,000、20,000、25,000って上げたところで水が入ってこないという意味では変わらないよね、というのが NeoShell の考え方なんです。だったらむしろ、衣服の中の水蒸気を抜くという方向性、そっちを強めたほうがいいだろうという。NeoShell はそういう方向に思いきっり特性を振った素材なんです。GORE-TEX と NeoShell でどっちが優れているということではなく、それぞれ違う方向に進化している素材なんですね。
透湿性とストレスフリーな履き心地、美しいシルエット

BREATH PANTSはカッティングがよいため、細身に見えても動きやすいのだそう。
NeoShellのレインウェアの防水性に関して言うと、自分もあらゆる状況でテストしたわけではありません。ただ、台風に近い豪雨の中で使ったこともあるし、アラスカで一日中雨の中をパドリングするときに着用したこともあります。先日も西表島でレインパンツを履いて裾を止めて沢に入りました。膝上まで強い水流が当たる状態でしたけど、浸水はありませんでした。基本的に耐水性については問題ないのかなと自分自身は思っています。
そんな NeoShell を使った Teton Bros.の BREATH PANTS ですが、やはり透湿性が高いので(湿気の)抜けはすばらしくいい。防水透湿性の生地の中ではとてもしなやかで、雨具にありがちなパリパリ感とかカシャカシャ感もありません。
それから、シルエットがとにかくこれはきれいなんです。Teton Bros.はやはりスノースポーツ向けの分野でシェルパンツを長く作っているという経緯があるからか、カッティングがすごくいい。だから、立ち姿がきれいなだけでなく、動きを妨げなくてストレスがない。

Teton Bros.のシェルジャケット Tsurugi Lite Jacket も NeoShell を採用。こちらは伸縮性のある生地を使っている。
3レイヤーだというところも面白いですね。軽量な雨具は2レイヤーのものが多い中にあって、これはちゃんと裏地が付いた3レイヤーです。2レイヤーであれば150gとか120gのレインパンツもありますが、3レイヤーで重量が188gというのは十分に軽いです。
Teton Bros.は上(ジャケット)で Tsurugi Lite Jacket という、やはり NeoShell を使った 春夏物の新しい製品が出ていますが、それと合わせても438gです。
AXESQUINシュゴ、Mountain Equipment Cyclone Pantsにも注目

7分丈にすることによる快適さを追求したAXESQUIN シュゴ。
7部丈というのも面白い選択肢です。足元がトレランシューズだったりするなら、どうせ濡れちゃうんだから裾が長くなくてもいいじゃんという考え方で、足さばきも楽にするAXESQUIN シュゴのようなレインパンツ。腰回りにメッシュパネルがあるので、チムニー効果のような構造で、パンツの中の湿気を上から逃がしてしまう。

フルレングスのパンツでポケットまでついているのに120gは魅力的な軽さ。Mountain Equipment Cyclone Pants。
軽量なレインパンツの定番としてはOutdoor ResearchのHELIUM PANTSがあります。ただ、こういうレインパンツにはポケットが付いていないことが多い。でもポケットが欲しいこともありますよね。それなら、Mountain Equipment の Cyclone Pants がいいと思います。今回取り上げた4つのレインパンツはそれぞれに個性があるから、自分の使い方に合ったレインパンツを選べるんじゃないでしょうか。
- 製品名1
- BREATH PANTS
- メーカー1
- Teton Bros.
- 価格1
- ¥22,000(税別)
- 製品名2
- シュゴ
- メーカー2
- AXESQUIN
- 価格2
- ¥19,000(税別)
- 製品名3
- Cyclone Pants
- メーカー3
- Mountain Equipment
- 価格3
- ¥14,500(税別)
- 購入
- Hiker’s Depotほか