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アルコールストーブの思想と、その究極を体現したわずか3gのゴトク TriPod Air

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アルコールストーブの思想と、その究極を体現したわずか3gのゴトク TriPod Air
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ウルトラライトが流行に至るきっかけを作ったものとして、アルコールストーブが挙げられるでしょう。とにかく小さくて軽くてシンプルな構造のものですから、「これでいいんだ!?」というインパクトを多くの人に与えた。ウルトラライトという思想を象徴するアイテムですよね。実際に、アメリカのスルーハイカーたちに尋ねてみると、その半数近くはやはりアルコールストーブを使っています。

ただこれは、「決して皆が使っているわけではない」ということでもあります。ウルトラライト=アルコールストーブと思われがちですが、使っているのはあくまでスルーハイカーの半数程度。残り半数のうち、さらに半数はガスストーブを使っていて、もう半数はそもそもストーブを持っていかない――だいたいそんな割合なんじゃないでしょうか。

※編集部注: 本稿は土屋智哉さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。

温かい食事がなくても構わない、サンドウィッチで十分、という人であれば、ストーブはいらないですよね。また、スルーハイクは基本的には無補給ではなく、3~4日間歩いたら街に下りて物資を仕入れることを繰り返すものですから、街で温かいものを食べればいい、とも考えられる。ウルトラライトというスタイルを生んだ、アメリカのロングトレイル~スルーハイクにおいて、ストーブは決して必須のものではないのです。
それでも、アメリカでアルコールストーブの利用者が多い最大の理由は、向こうではアルコールが調達しやすいことにあるのでしょう。金物屋さんやガソリンスタンドで売ってますから、どの町でも手に入るわけです。

DIY文化としてのアルコールストーブ

日本では2005年くらいからアルコールストーブがひときわ注目を集め始めたのですが、これは必ずしも「商品」として支持を得たということではありません。アルコールストーブは「売りもの」というよりも「自作するもの」という意味合いが強かった。そのDIYなあり様が新鮮でしたし、ムーヴメントとして盛り上がったのです。

当初は T’s StoveJSB山より道具 の寺澤英明さんといった方々が中心になって、アルコールストーブを自作しては報告し、改良点を見つけて共有していました。どうすれば燃費がよくなるか、火力を上げる方法は、安全性を高めるには……商品を開発するというよりも、みんなでいいものを作っていこう、オリジナルな発想のものを目指そうと。その商売を考えてない感じがおもしろかったんですよね。日本におけるウルトラライト系のコミュニティーは、このアルコールストーブのコミュニティーから始まったと言っても過言ではないでしょう。

そのように先駆者の方々がアルコールストーブの機能性を追求していくなかで、クオリティーの高いものが作られるようになり、だったら売って欲しいという声も上がるようになった。それで2010年くらいから、外に販売する流れもできてきたのです。

とは言え、先述の T’s Stove にしても、初期のコミュニティーとは別のところから出てきた SHARA PROJECT にしても、アルコールストーブを販売してはいるけど、それが本業ではない。どんどん生産して、常に在庫を揃えて……みたいなスタイルで売り出しているわけではなく、いまもDIY的なもの作りの延長なのです。だからこそ、うちみたいな個人店で売れるという面もありますよね。

使う側からしてみても、アルコールストーブに惹かれる理由は、決して機能性だけではなく、手作り感のある道具ならではの面白さや佇まいにあるのではないでしょうか。
そういう意味で、僕はアルコールストーブの場合、具体的にこのメーカーのこのモデルを薦めるということはしません。使いたいと思ったものを使えばいいと思うし、その人がインパクトを受けたものを選べばいい。もちろん製品によってスペックの違いはありますが、そこを基準にするよりも、まず使って楽しんでほしい。それがアルコールストーブとの正しい付き合い方だと思うのです。

T’s Stove は当初から現在まで、アルコールストーブの作り方をブログで懇切丁寧に紹介している。うちのお店でも、製品を自由に手に取って、写真に撮って、自作の参考にしてくださいとよく言っています。また、JSBさんを筆頭に、アルコールストーブをいまも研究し続けている方々がいる。どんな世界でも、研究の最前線の成果が商品に落とし込まれるまでには時間がかかりますよね。そういう意味で、アルコールストーブに関しては、まだ商品化されないDIYの最前線がおもしろいと感じているのです。

UL系ストーブの最前線、TriPod Air

とは言え、商品として流通しているもののなかでももちろん進化はありますし、おもしろいものも出てきています。今年、もっとも新しいと感じたのは、atelier 雪月花 というガレージ・メーカーが作ったゴトク TriPod Air です。ゴトクですからアルコールストーブとは違いますが、アルコールストーブのミニマルな考え方をある意味で極めた製品だと思っています。

これはわずか3gという超ウルトラライトな固形燃料用の台座です。飲み物の瓶のアルミキャップなどを容器に使えば、アルコールも使うことができます。
3点で上に置くものを支持する構造なので、確実に平面が出来上がる。接地部分も3点で、まるでオブジェのような造形美がありますよね。

ただ、3点での支持は、安定性が高いとは言い難い。固形燃料をきれいに燃焼させるには高さが十分ではないし、地面に直に置いて使うには、確実にフラットな場所を見つける必要があるでしょう。

ですから機能面では足りないところも多いのですが、ウルトラライトとは、そもそもそういうものだと思うのです。不便も多々あるけれども、その世界にはその世界の楽しみ方がある。TriPod Air は見た目からしてウルトラライトの究極と形容できるし、だからこそ使ってみたくなりますよね。アルコールストーブをはじめとするUL系ストーブの最前線に位置付けていいプロダクトなのではないでしょうか。

製品名
TriPod Air
メーカー
atelier 雪月花
価格
¥3,465
購入
Hiker’s Depot ほか

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