
ベルトドライブのHELMZが出る! もしくは、あのHELMZがベルトドライブ!?――ということでどっちにしても非常に気になったので、試乗車をお借りして少しだけ乗ってみました。
日本でベルトドライブと言うとまだ軽快車(いわゆるママチャリ)のイメージが強いかもしれませんが、ブリヂストンサイクルは2010年からはカーボンベルトドライブを開発、同社のクロスバイク オルディナ S8cb にインストールしてリリースするなど、スポーティなサイクリングにベルトドライブを用いる方向性を追求してきた経緯があります。
ベルトドライブの最進化形!?
そのブリヂストンサイクルが、さらに進化したカーボン・ソリッド・ドライブという新しいシステムを開発、それが最初にインストールされた完成車としてHELMZ SSSDがリリースされるという流れです。リアハブにはシングルギアがインストールされ、ドロップバー仕様のSR1とライザーバーのS10がラインナップされています。お借りしたのはドロップハンドルのSR1の方です。

試乗したのはSR1の530mm ブラックモデル。写真は同色の550mmモデル。
実を言うと、僕が日常的に乗っているバイクはベルトドライブです。通勤にもツーリングにも買い物にも使っています。米Gates社のCarbon Drive(CDX CENTERTRACK)というベルトドライブシステムを、SurlyのCross-Checkのフレームを改造して――つまりフレームを切断+加工して――インストールしたものに乗っています。このバイクのことを個人的にBelt-Checkと呼んでいます。
これまでスポーツバイシクルでベルトドライブというと、北米や欧州ではこのGates Carbon Driveが寡占状態でした。NAHBS(北米ハンドメイドバイシクルショー)に登場するベルトのバイクもGates Carbon Driveばかりでした。
そこにブリヂストンサイクルが満を持してリリースしたカーボン・ソリッド・ドライブ。しかもHELMZにシングルギアで搭載、というわけで、気になっていたのですが、果たして――。
文字通りソリッドな印象の乗り味。チェーンに近い
乗ってみてすぐに感じたのは、自分のBelt-Checkにくらべて、踏んだ感触がカチッとしているということ。かなりチェーンに近いという印象でした。
ベルトドライブの特徴を語るときに、ときどき見かける「漕ぎ出しがソフト」という表現は、スポーツ的に自転車に乗るシーンではあまりうれしい特徴ではないでしょう。ソフトということはそれだけベルトが伸びているということで、力が無駄になっている可能性があるからです。自分のBelt-Checkは乗っているときは特に柔らかさは感じませんが、漕ぎ出しや急に上り坂になってトルクがかかった瞬間、ダンシングのときなどには、微妙にですがソフトな感触があります。
今回お借りしたHELMZ SSSDは、フレームの違いもあるでしょうけれど、それよりもタイトのように感じました。

こちらはライザーバー仕様のS10。コミューターとしてはこちらも魅力的。
これには2つの理由が考えられます。
ひとつは、ベルトのテンションが非常に高いということ。Gates Driveもチェーンに比べるとはるかにテンションを高くする必要がありますが、試乗したHELMZのベルトのテンションはおそらくそれよりも高い設定だと思います。指で押しても遊びがほとんどありません。
(※僕のBelt-Checkはリアがシマノの内装ギアハブ Alfine 11 なのですが、この環境でテンションを強めにかけると、ギアハブ内部で違和感――コリコリ音――が出るため、あるレベルよりテンションを上げられないという特殊事情もあります。シングルでもっと強いテンションをかけたらどういう乗り味になるかを試したいところです)
もうひとつは、ベルトの性質自体が、カーボン・ソリッド・ドライブの方がGatesよりも硬質かつ伸びが少ないという可能性です。この点についても客観的に比較テストできる環境がないので、断言できませんが、印象レベルではその可能性もあると思われました。
少なくとも、カーボン・ソリッド・ドライブが、その名の通りソリッドで、効率よく力を伝えていることは実感できました。HELMZ SSSDのジオメトリやコンポーネントの仕様のおかげもあるでしょうけれど、ちゃんとスポーツ的に乗れるアーバンレーサーという印象です。ノーマルでは700x32cのタイヤを履いていますが、好みによっては、23cにすると、シングルスピードのロードレーサーとして、さらに快速に走れることでしょう。
ベルトドライブなのに後輪がクイックリリースできる
そして、HELMZ SSSDならではの特徴として、
リアエンドがベルトに適正なテンションを与えやすい特殊な構造だということ、さらに、後輪がクイックリリースだということ、これらに触れておくべきでしょう。
とくに後者はベルトドライブの自転車としては珍しいのではないでしょうか。
これが実現できるのは、一般的なディレイラー(外装変速機)を使った自転車と同様に、リアエンドがバーティカルドロップアウト仕様になっているからであり(多くの場合、ベルトドライブ用のフレームは水平のエンド仕様になっている)、しかもそのツメ自体が前後に移動し、ベルトに適正なテンションをかけられる位置に固定できるからです。
このあたり、ベルトドライブユーザーでないと実感できないかもしれませんが、ベルトはチェーンよりもテンション設定がセンシティブです。また、車軸の固定はナット仕様の場合がほとんどなので、15mmレンチが必要になります。この2点から、輪行の時に非常に手間が増えるのです。それを避けるために、僕などは不本意ながらBelt-Checkの後輪を外さずに輪行していました。
HELMZ SSSDなら前後輪とも外してコンパクトに輪行できるでしょう。これは、サイクリング好きにとっては、素晴らしいことです。
上記以外にもベルトドライブには明確なメリットがあります。たとえば――、
●潤滑のためのオイルなどを使わないので、ベルトや前後のギアに汚れが付着しにくい。
●金属的な摩擦音がなく、ディレイラーを使わないせいもありますが、非常に静か。
●チェーンよりも軽量。
他社製とは言え、同じくベルトドライブを愛車にしている自分としては、ぜひもっと、これらのベルトドライブのメリットを享受する人が――スポーツ的に自転車に乗る人の間でも――増えるといいなと思っています。
コンポとしてオープンに販売してほしい
ただ、それにはいくつかハードルもありそうです。
その大きなひとつが、インストールできるフレームに条件がある、ということでしょう。
フレームの後ろ三角のどこかに切れ目がないとベルトはインストールできないのです。ベルト自体は切れ目のない輪っかだからです。
完成車で買う限りは、そこは気にしなくていいところです。それに、ブリヂストンサイクルは現在のところコンポーネントとしてカーボン・ソリッド・ドライブを一般に販売しているわけではありません。でも、スポーツとしての自転車の世界でベルトドライブが普及するには、自由にコンポーネントとしてインストールできたほうがいいと個人的には思います。コンポーネントとして広がれば、ベルト対応のフレームも増える。逆も真なり。
もっとも、Gates社とブリヂストンサイクルはビジネスモデルがまったく違うでしょうから、当然アプローチが違うのは理解できます。また、スポーツサイクリングと言っても幅広いので、ターゲッティングがどこにあるかによっても違ってくるでしょう。
ここではひとまず、すぐれた新しいベルトドライブシステムが世に出ることを素直に喜びたいと思います。
- 製品名1
- HELMZ SSSD SR1
- 製品名2
- HELMZ SSSD S10
- メーカー
- ブリヂストンサイクル / narifuri
- 価格1
- ¥159,000
- 価格2
- ¥99,800
- 発売日
- 2013年12月下旬
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